フォーバレルの二店舗目はTHE MILL(ザ・ミル)というベーカリー併設のカフェ。バレンシアの本店と対照的な雰囲気のお店である。女性的で明るくてクリーン。本店の近くの閑静な住宅街にあっていつも賑わっている。
三店舗目はサンフランシスコ郊外のポートラという場所にあるという。ポートラ? 聞いたことない地名だし、まわりに何もありそうにない。一体どうしてここに新しい店舗をつくったんだろうと不思議に思っていた、訪れる前までは。
ミッション地区から南へ、ひとけのない国道を自転車で走ること30分。フリーウェイの高架をくぐると寂れた小さなチャイナタウンに入り込む。チャイナタウンと言っても中華料理店や散髪屋さんがぽつりぽつりとあるくらいで市内のとはわけが違う。街を歩く人は中国系が多い。ここにフォーバレルのカフェがあるとは思えない・・。
ゆっくり歩きながら探すとチェーン店「サブウェイ」の奥にグレーの建物が見えた。これだ!知らなければ見落としてしまいそうな小さなカフェである。
三角のガラス屋根、グレーの壁にはオレンジの花が咲くツタがはわせてある。壁紙のようでとても可愛い。
さっぱりめのゴクゴク系アイスコーヒー。30分のバイクライドの後には最高。
お客さんはどこから来たのか今風の若者と地元の中国系の人が入り混じっている。
天井が素敵。
ふとカフェの横を見ると何やら作業をしている人たちがいる。土を運んだり地面に穴を掘ったり。何してるんだろう?
眺めながらベンチに座ってアイスコーヒーを飲んでいるとおばさんに話しかけられた。
「もし質問があったら聞いて下さいね。これはポートラ・ネイバーフッド・アソシエーションという組織の活動なんです。以前ここはゴミ捨て場のような汚れて治安の悪い場所でした。そこを美しい場所にしようと活動しています。壁にアートを描いたり、公共の小さな本棚をつくったり、そしてこのようにガーデンをつくったりしているんですよ。あなたのお家にはお庭はあります? よかったら手伝ってね。うふふ」
なるほど、このおばさんの話ですべて合点がいった。フォーバレルが三つ目のカフェをここにした理由は、彼らがこのネイバーフッドをよくしたいと思ったからだ。いいコーヒーがあればそこに人は集まり、人が集まれば地域は活性化する。クールなカフェがあればその場を中心に、街はいい雰囲気になっていく。かつてミッション地区がそうだったように。
このカフェは公的な助成金を得て、地元の職人によってつくられ、今後、風力発電、太陽光発電、コンポストトイレ、電気自動車の充電ステーションがビルトインされる。完全なるオフグリッドのカフェだ。最終的にはこのあたりはカフェを中心とした公園になるという。
フォーバレルはすでに、ずっと先を見ている。
ゴミだらけで治安が悪い寂れた小さなチャイナタウンが、フォーバレルを中心に美しくクールなネイバーフッドになるのは遠くないだろう。