私はコーヒーの生産地に行くことをいつも夢見ていた。
大学生の頃、スターバックスで働いていて、スマトラとグアテマラの味の違いを感じ取ることができたとき「生産地によって味が違う」ということを、なぜかとても興味深く感じた。
同じ命なのに育った環境それぞれの個性がある。その違いを楽しむこと。その先には何かがあると思った。今私は幸運なことに、仲間とともに「その先」を見ようとしている。
ダニエルさんの美しい庭を全身で感じながら、私は今、また新たな原点に立っていると考えていた。
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通りすがりに出会ったその女性は「ダニエルさんを紹介するわ」と言って、娘さんと手を繋いで歩き出した。到着したのは、坂の途中にある、鉄のワイヤーで作った簡単な門の前だった。表札やサインなどは見当たらない。女性は門を開けてどんどん進んでいく。
あたりはジャスミンのような、そして少しスパイシーな花の香りに包まれている。コーヒーの花の香りだ。
正面に小さな建物が見える。家の前に小さなパティオ(コーヒーを乾燥させる広場)がある。しばらくすると、森の中からバナナを二房持った男性が現れた。ダニエルさんだ。彼は一通り私たちの話を聞くと「農園を見るかい」と、私たちを森の奥へ連れて行ってくれた。
そこはコーヒー農園というより果樹園のようだった。ダニエルさんは木から果物をもぎとって、私たちに渡してくれた。それは小さな桃のような果物だった。かじると素朴な甘さと酸味がじんわり染みる。バナナ、カカオ、パイナップル、パッションフルーツ、ベリー、トマトのような味のする不思議な赤い実。その木々の間には、白い花をたわわに咲かせたコーヒーの木が所狭しと生きていた。果樹園の奥はさらにコーヒーの森が広がっているという。ダニエルさんは自分の仕事に誇りを持っている。初めて会った人に、こんなにも優しくあれる人がいる。
この美しい庭で過ごした時間が、私は愛おしくてたまらない。
思い返すと、心の中が彩られるように豊かになる。
ダニエルのコーヒーを日本の人に飲んでもらったら・・と想像する。この風景のことを誰かに伝えたい。