今回はちょっとスピンオフ的なお話を。
◎キューバ飯
キューバには二種類の食べ物がある。それはキューバ飯とそれ以外である。
キューバ飯(私たちが名付けた)とは、キューバの定食のようなもの。肉、豆のスープ、ライス、時々バナナのフライが付いてくる。肉は大抵、鶏、豚、ほぐした牛肉などから選べる。ただ焼いてあるだけ、というのが多い。豆のスープは何の出汁を使っているのか分からないけどすごく美味しい。少し野菜の切れ端が入っていることもある。日本でも好まれるような味だ。ライスはジャスミンライスのようなさらっとしたタイプ。
キューバ飯は、5CUC(約500円)も出せばモヒートも付いてお釣りが来るくらいの値段である。どこへ行っても味にあまり差はないけれど、ローカルであればあるほど美味しいように思われる。
私のベストキューバ飯は、山奥の地図にも載っていないカサ(民泊)のお母さんが作ってくれた夕食。定番の定食にプラスして、もちもちのマッシュポテトのようなものを出してくれて、それが極めて美味しかった。じゃがいもではなくキューバ独自の芋類なのであろう。里芋を少しサクッとさせたような食感、ガーリックの風味とほどよい塩味が、なんとも言えない美味しさだった。その後レストランに入ると必ずあるか尋ねてみたけれど、再び味わうことはできなかった。
キューバ料理のレストランのメニューにはキューバ飯しかないので、それに飽きると苦しくなってくる。なぜかというと、それ以外のイタリアン風、フレンチ風のレストランは、はっきり言って壊滅的に美味しくないからだ。フロアで生演奏されている音楽やお酒はこんなに素晴らしいのに、食事はどうしてこうなのか・・・。と不思議に思う。
そう、キューバのお酒はとても美味しい。モヒートはどこへ行っても大抵美味しい。「プレジデンテ」というビールは、まるでカヴァのような上品な味で、カラカラの喉にグラスで流し込むとたまらない。そしてこの旅で最高の一杯は「フロリディータ」のフローズン・ダイキリであった。これはほかのメンバーも異存ないだろう。ひんやり、ふんわりとした飲み心地、天国的にまろやかでとろっとした味わい、きめ細かい甘さ、ライムの香りとラムのアルコール感が優しく響く。尖ったところがひとつもない、それでいて忘れられないほど強い印象を残す。このような体験は、味の勉強になるだけでなく、思考や表現にも影響を与える。この印象を、絵が得意な人は描いてみるのかもしれない。楽器が得意な人は奏でてみるのかもしれない。私はどうするんだろう、コーヒーの味づくり、文章、総じて自分の在り方か。
◎車の中
私たちの移動手段はすべてレンタカー。約一週間半かけて最終的にはキューバをほぼ一周した。一日中ずっと車の中で過ごすこともあったけれど、思うほど苦痛ではなかった。気心の知れた五人だから、特に気を遣うこともなく楽だったのかもしれない。深い話をしたり、下らない話をしたり。懐かしい音楽をかけてみんなで歌ったり。キューバの風景を眺めながら聴く90年代Jポップはなかなかシュールであった。ところで、キューバの風景に最もマッチする90年代Jポップは何だと思いますか? 答えはチャラである。甘くエキゾチックな声が、延々と続くさとうきび畑やカラフルな壁の街と、何とも言えないマリアージュであった。もしキューバをドライブする機会があれば試して欲しい。
サービスエリアのような場所に寄り道するのも楽しかった。いくつかの露店がありスナックや飲み物が売っている。置いてあるものはどこも大体同じ。塩豚サンド、もちもちのピザパン、ピンクのアイスクリーム、マンゴーかパイナップルのジュース、そして甘いコーヒー。みんなで色々買って交換した。
ピザパンを頬張りながら、地の果てのような場所に佇んでいると、自分が誰なのか曖昧な気がしてくる。属性が取り去られて、ただ一人の人としてそこに立っている。行こうと思えばどこへだって行ける自由を、本当は誰もが手にしている。
◎ミニスカート
キューバの女性のファッションは可愛い。特にあらゆる場所の制服のセンスが良い。とにかくあらゆる制服がミニスカートなのだ。空港のスタッフは以前書いた通り、カーキベージュのシャツとミニスカート。映画のコスチュームのような素敵さ。学校の制服は、半袖の白いシャツに黄土色の台形ミニスカート。丈感のバランスが可愛い。レストランのサービスは白シャツと白のミニスカート。みんな脚が綺麗でヒップがセクシー。おばちゃんもミニスカートに網タイツを履いてばっちりラメ感たっぷりのメイク。その心意気が可愛いのである。
ところである夜、キューバ在住の方に、ルーフトップのクラブのような場所へ連れて行ってもらった。サルサとクラブミュージックが交互に流れるような選曲で、老若男女が踊り狂っていた。そこでの体験はかなり衝撃的だった。この世界ではサルサが踊れない女は女ではなく、男もまた然りである。キレキレの腰使いならおばちゃんでも誘いが絶えず、綺麗な欧米の女の子でも踊れなければ誰からも誘われないというシビアな世界である。サルサはカリブ海周辺諸国の共通言語なのだろう。スペイン語は習得したいと思うけど、サルサもか・・・。なかなかハードルは高い。