キューバのコーヒービジネスについて少し説明を。
キューバは社会主義国家なのであらゆるものごとに独特の仕組みがある。例えばいまだに配給があったり、医療や教育が無料だったりするわけだが、もちろんコーヒービジネスのあり方も独特である。
キューバのコーヒー輸出業者は国営の一社しかない。そこがすべてのコーヒーの輸出をコントロールしている。そしてコーヒー農園もすべて国営で、個々の農園が単独でビジネスをすることはできない。キューバでコーヒーの仕事をする難しさはそこにある。
コーヒー農園を見に行くにも国の許可が必要で、大使館に行ってしかるべき理由を伝え、手続きをしなくてはならない。その手続きには三ヶ月かかると知ったのは、旅に出る直前だった(涙)
この旅の目的は、キューバのコーヒー農園とつながることである。私たちは農園にアポイントを取る以外の、あらゆる方法を考えた。その一つが、キューバ唯一のコーヒー輸出業者、Cubaexport(キューバエクスポート)を訪ねることだった。何かヒントを得られるのではないかと考えたのだ。
ちなみに私たち五人のうちに、スペイン語を喋れる人はいない。手配していた通訳さんに直前キャンセルされてしまった。まあ、ここはキューバ。そんなことも想定内である。
キューバに到着して二日目。慣れないハバナの街で散々迷いながら、キューバエクスポートのオフィスに辿り着いた。ある方のおかげでメールでアポイントを取ることはできていたが、メールを頼りにできるような国ではない。受付のおばさんに英語と(全く通じない)グーグル翻訳で必死に伝えても、なかなか伝わらない。「やっとここまで来れたのに・・・」
私たちがまごまごしていたら、白人の男性が突然英語で声を掛けてきた。「英語は話せます?」救世主現る。私は必死で伝えた。キューバエクスポートの担当者と話したい、キューバのコーヒー農園と出会いたいのだ、と。
ロシアのコーヒー輸入業者だという彼は、受付のおばさんにスペイン語で伝えてくれた。おばさんはおもむろに受話器を取り出し、内線電話を掛け続けた。掛けては切り、掛けては切り・・・を繰り返す。みんなどんだけ席におらんねん!
しばらくすると、少し年配の女性が降りてきた。秘書や総務のような雰囲気である。彼女は「ビジネスビザがないとミーティングは設定できません」と言った。なるほど、それも想定内である。
私はバックパックの中から手紙を取り出した。HOOPのコンセプトやこの旅の目的を書いたスペイン語の手紙である。手紙を女性に渡すと、すぐに読んでくれた。女性の表情ががふっと和らいだ。担当者に渡してくれるという。「メールでコミュニケーションを取って下さい」と担当者のメールアドレスまで教えてくれた。
何の手がかりもないところからここまで来れたことに、私は胸が熱くなった。ここに辿り着くまでたくさんの人が助けてくれた。これからもまた助けられながら、私たちは進んでいくのだろう。人と出会い、大切にすることがすべて。改めて心に刻まれた一日だった。
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夕方、五人でホテルに向かって歩いていると、ポツリポツリと雨が降り出した。それはやがて強さを増しスコールになった。ガレージで雨宿りをしていたら、若いカップルが駆け込んでいた。赤毛の太い三つ編みの女の子と、線の細い優しそうな男の子。制服の白いシャツが雨で濡れている。スコールを言い訳にするように、抱きしめあって、囁きあっていた。
キューバのスコールは、草木に水をあげるような強く優しい雨だった。早く止めと空を睨む人も、舌打ちする人もいない。ただそこにあるものを受け入れるだけ。スコールの間に、キューバの人のことが少し分かった気がした。雲がちぎれてオレンジの光が差し、私たちはまた歩き始めた。