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前へ、前へ。

ハリケーンが過ぎ去ったあと、私たちは心配になり、ダニエルをもう一度訪ねることにした。フィンカに向かう山道は倒木で遮られ、落ちた松の葉が車のタイヤを滑らせた。空は黒い雲で覆われ、時折、集中豪雨が通り過ぎる。今考えると、とても危険な状態で、私たちは車を走らせていた。

やっとの思いで、ダニエルのフィンカに辿り着いた。私たちに気付いて飛び出してくれたのは、ダニエルの奥さんだった。その笑顔を見て「無事だったんだ・・・」とほっとして、再会を喜びあった。ダニエルは親戚の家の様子を見に行っているという。猫が私たちの足元をすり抜ける。この子も無事だった、よかった。

でも、奥さんが話してくれたのは、胸が塞がるような事実だった。ダニエルのフィンカは、すべて失われてしまった。もう、あの宝石みたいなバナナやグアバ、アボカドは一つも残っていない。コーヒーの実もすべて風が持っていってしまったと。

数日前まで、その美しさに身を浸すように歩き回った美しいフィンカ。その光景が頭をよぎり、目の前の荒れ果てたフィンカと重なる。愛情を注いで、時間をかけて育み、人生の誇りにしているダニエルの大切なフィンカが、一瞬にして失われた。自分のせいでも、人のせいでもない。

しばらくして、ダニエルが帰ってきた。カーキ色の雨合羽を着て、のしのしこちらに向かってくる。なんと、あの大きな笑顔で、ガッツポーズをしながら。

「前へ進まないとね!」「僕らは生きてるんだから!」「前へ!前へ!」そんなことを叫びながら。

私たちはすごく驚いて、無事を喜んで、笑って、そのあと少し泣いた。ダニエルの目の奥は悲しみが揺れていて、私たちをどうしようもない気持ちにさせた。

大切なものはもう二度と戻ってこない。

でもダニエルは、悲しみを抑えて、もう未来を見ようとしている。

夕方17時を過ぎて「泊まっていくんでしょう?」とダニエルは言った。こんな大変なときに申し訳ないし、そろそろ行くね、と言うと「ご飯は食べて行くよね?」と奥さんが。大丈夫だよ、と言ったら「もう準備しているのよ」と言って、テーブルいっぱいのご飯を出してくれた。アボカド、豆、ライム、さつまいも。もう戻らない、ダニエルの農園で育まれた作物でつくられた食事。こんなときに、申し訳無くて、悲しくて、でも嬉しくて、噛みしめるように食べた。

この出来事はきっとこの旅のメンバー全員の人生を少しずつ変えるだろう。哀しいこと、苦しいことが起こったら、ダニエルのガッツポーズと目の奥の悲しみを思い出すだろう。

これからダニエルと私たちのことを考え続けたい。

与える、受け取るだけではない、5年後、10年後、お互いに喜び合えるような物語を紡ごう。

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