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レストラン「GEORGE」にて。

Uberで呼んだタクシーのラジオから、コンテンポラリー・ジャズが流れている。変則リズムとピアノは、トロントのスパンコールのような夜景とマッチして、まるで未来都市にいるような気分にさせる。

「次はキューバのピアニストの一曲です」流麗なピアノの音が流れ始める。トロントで流れるキューバのジャズは、この上なく洗練されている。あの蒸されるような暑さと古びた壁の色、どこまでも続くサトウキビ畑の風景が一瞬蘇る。そのイメージのギャップに、私は少し笑った。

私たちの帰国のフライトは、ハリケーンの影響によって24時間遅延し、カナダのトロントで一泊することになった。こうなったらトロントの夜を楽しもうと、仲間が素敵なレストランを予約してくれて、私たちは今、タクシーでそのお店に向かっている。

肌に触れるさらさらとした初秋の空気。夕方の控えめな金色の光。整えられた芝生に落ちる、広葉樹の木漏れ日。その全てが私をリラックスさせる。

ハリケーンの被害による連日の停電と水シャワー、ホテルでしか使えない遅いWi-Fi。最終日、ホテルで朝食を食べていたら、自分たちのテーブルのすぐ横に、バラバラッと音を立てて天井の一部が落ちてきた。私たちはかなり疲弊していた。

トロントのホテルに到着して、電気がついていること、たっぷりお湯が出るシャワー、スムーズなWi-Fi、ぱりっとしたシーツの肌触り、英語を話す親切なフロント、その一つ一つをしみじみ有難く感じた。Yelpでレストランを探し、Uberでタクシーを呼ぶ。なんて合理的なんだろう。そしてそれを、なんて心地よく感じるんだろう。

そんな生活を求めて、キューバではアメリカに亡命する人が絶えない。街の人に話を聞くと、キューバの革命の歴史を誇りに思っているのは主に上の世代で、多くの若者はシニカルに捉えているという。「革命は素晴らしかったと思うけど、今の生活がベストとは思えない」と。

ここでまた同じ問いが繰り返される。何が幸せなんだろう。

農村部や田舎の街では、人は生きているだけで幸せそうだった。

でも、その人たちも世界を知れば、先進国の水準の生活を望むだろう。

先進国の資本や文化が流入して、キューバ独特の文化が損なわれてしまう前に見ておこうと、近年観光客が爆発的に増えているという。

「そのままのキューバであってほしい」という考えは、傲慢なのかもしれない。私たちは、物質的な豊かさやテクノロジーの恩恵を享受して、飽和すら感じているから、そんなことが言えるのかもしれない。

レストランのドアを開ける。揃いのオックスフォードのシャツを着たサービスマンたちが私たちに笑いかける。フルートグラスにスパークリング・ワインが注がれ、一皿目が運ばれてくる。

贅沢な時間を過ごしながら、そんなことを考えていた。

最後の夜を彩ったトロントのレストランの名前はジョージ。
ジョージに救われ、ジョージに癒やされる旅。仲間の粋なはからいであった。

GEORGE Restaurant

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